報道されている私立学校の教員の給与が本当に実態に合った適正なものかを検証します

労働環境

今回、取り上げたい記事はこちらになります。

娘が私立の高校教員と結婚します。公務員ではない「私立の高校教員」の平均年収はいくらなのでしょうか?(4/19付ファイナンシャルフィード記事)

別に文句をつけたいわけでもありませんし、結婚その他プライベートなところに介入したいわけではありませんが、実際問題としてライフプランニングに給与待遇の話は欠かせませんのでしっかり検証していきたいと思います。

結論から言うと、様々な公表データからよく考察していると思いますが、内部側の人間にだからこそできる、もう一歩踏み込んだモノの見方があるのではないかと思います。

引用されている総務省統計局のデータについて

記事が触れている内容

記事には以下のようにあります。

総務省統計局の調査によると、私立高校教員の平均月収は男性の場合36万4400円であり、年収にすると437万2800円です。また、日本私立学校振興・共済事業団によると、平均賞与は158万2687円です。これを先ほどの年収に足すと、595万5487円です。

https://financial-field.com/income/entry-286732

こちらについてはすぐにTwitter上でもご返答をいただきました。

いろいろと考えることはありますが、全国の平均をとるとこのような数値に落ち着くのかもしれません。

そこで、私もこの総務省統計局の調査の生データを見てみることにしました。

表番号57「給料月額別 職名別 教員構成」を現役私学教員(転職の鬼)が分析すると

表を引用すると以下のようになります。

全体を眺めてしまうと傾向の差があっても分布の様子が同じように見えてしまうかもしれません。

そこで、明らかに顕著な部分に印をつけてみました。

具体的には月給45万円以上をもらっている教員の割合に注目してください。公立と私立を見比べて「男女」、「教諭」の段がわかりやすいのではないでしょうか(下表で色を赤字にかえておきます)

区分区分10万円未満10万円以上15万円未満15万円以上20万円未満20万円以上25万円未満25万円以上30万円未満30万円以上35万円未満35万円以上40万円未満40万円以上45万円未満45万円以上平均給料月額
100.01.90.11.09.118.712.715.731.98.9353.8
国立100.02.04.317.220.625.727.23.0346.8
公立100.02.20.10.26.419.212.316.539.33.9353.2
私立100.01.20.12.815.417.813.813.714.320.8355.3
100.00.40.10.87.920.113.215.131.710.7362.3
100.05.10.11.311.415.911.716.932.45.2336.0
校長100.00.20.10.40.71.41.32.68.984.4487.2
副校長100.00.30.61.55.16.73.022.460.3442.1
教頭100.00.30.00.10.61.64.63.739.050.0445.7
主幹教諭100.00.10.60.73.07.515.961.111.1411.1
指導教諭100.01.55.84.110.370.08.3412.0
教諭100.02.00.10.77.919.713.617.133.06.0351.5
助教諭100.01.39.330.324.218.46.68.41.5278.6
講師100.00.50.38.146.731.09.82.31.00.4249.8
養護教諭100.06.60.11.58.314.810.119.036.33.3335.0
養護助教諭100.05.345.720.722.91.14.3263.6
栄養教諭100.022.255.611.111.1285.3
(別掲)実習助手100.01.60.12.312.621.422.421.617.40.6321.2
(別掲)代替教員100.00.10.30.650.629.316.72.30.2258.7
うち公立100.00.40.10.15.521.512.815.538.85.3360.3
うち公立100.05.70.10.48.114.611.218.440.41.1339.1
うち公立校長100.00.11.77.790.6469.5
うち公立副校長100.00.15.324.969.7447.3
うち公立教頭100.00.40.02.90.145.750.9444.8
うち公立主幹教諭100.00.10.80.02.27.316.268.35.2409.7
うち公立指導教諭100.03.80.24.590.11.4423.1
うち公立教諭100.02.20.10.26.620.813.117.539.40.1346.7
うち公立助教諭100.016.79.37.414.851.9363.2
うち公立講師100.00.21.447.430.118.01.61.3261.1
うち公立養護教諭100.07.10.04.613.99.521.243.40.3342.5
うち公立養護助教諭100.01.755.927.111.93.4254.4
うち公立栄養教諭100.020.040.020.020.0315.0
うち公立(別掲)実習助手100.01.50.12.112.521.422.421.817.60.6322.4
うち公立(別掲)代替教員100.00.20.350.829.616.82.30.2259.4
うち私立100.00.30.12.513.517.114.214.015.622.8367.1
うち私立100.03.50.13.720.119.412.912.911.316.2327.6
うち私立校長100.00.60.21.42.44.84.65.112.268.6533.1
うち私立副校長100.00.81.43.612.79.17.418.946.2434.2
うち私立教頭100.00.10.10.52.05.79.112.822.247.5448.1
うち私立主幹教諭100.00.23.96.99.014.823.441.8418.2
うち私立指導教諭100.03.78.69.718.441.518.1396.1
うち私立教諭100.01.40.11.911.516.615.115.816.021.8364.4
うち私立助教諭100.01.410.231.725.719.55.74.11.6270.3
うち私立講師100.00.50.39.146.531.28.52.40.90.5248.0
うち私立養護教諭100.04.70.46.820.817.811.811.712.413.6309.9
うち私立養護助教諭100.011.428.610.041.42.95.7279.2
うち私立栄養教諭100.025.075.0248.3
うち私立(別掲)実習助手100.08.218.017.219.420.59.85.71.1254.0
うち私立(別掲)代替教員100.04.08.020.036.016.016.0219.2
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00400003&tstat=000001016172&cycle=0&tclass1=000001216346&tclass2=000001216347&tclass3=000001216349&tclass4=000001216355&cycle_facet=tclass1%3Atclass2%3Atclass3%3Atclass4&tclass5val=0

ざっくりと言ってしまうと、公立教諭のうち、月給で45万円以上をもらっているのは男性全体の5.3%、女性全体の1.1%となっています。役職で見ると校長が90.6%ということなので、男女問わず校長になりさえすれば届く、という印象です。なお、公立教諭で月給45万円以上をもらっているのは一般の教諭のうちの0.1%なのでかなり少数派といえるのではないでしょうか。

一方、私立学校の教諭のうち、月給で45万円以上をもらっているのは男性全体の22.8%、女性全体の16.2%となっています。また、私立学校の一般の教諭でも21.8%が月給で45万円以上をもらっているということになります。

転職の鬼
転職の鬼

この表の恐ろしいところは、私立教諭の月収40~45万円が16.0%なのに45万円以上が22.8%である点です。私立学校は45~50万、50万円以上と分けて統計データをとってもいいレベルかもしれません。データが頭打ちになっている感も否めず、まだまだ伸びしろがありそうです。

なお、個人的には私立教諭の月給の分布のピークが2山になっていることも気になっています。25~30万円の私立教諭も16.6%いらっしゃいますが、これは年齢構成上、仕方のないことなのか、それとも給与があがらないブラックな私立学校が一定数存在するからなのかまでは判別がつけられません。公立校のこの給与帯の前後はキレイな1山になっているので、逆に気になってしまいます。

もっとも、逆から見ると私立学校には指導教諭や主幹教諭があまり普及していないから、教諭の給与のデータが高めに出ているのだ、というモノの見方もできるでしょう。しかし、更に逆から見ると、指導教諭や主幹教諭にならなくても教諭の段階で高めの給与をもらえる可能性もあるというところに戻ってくるのかもしれません。

私立高校教員の職名別平均給与について

記事は丁寧に筆者が表も作成しています

確かに教諭、指導教諭、主幹教諭、教頭、副校長などと役職の名前はありますが、これはあくまでも公立校に重点をおいた話題になると思います。

私は片手でギリギリ足りる程度の私立学校で勤務したことがありますが、いずれの学校でも主幹教諭や指導教諭という身分を耳にしたことはありません。

ということで、Twitterにてアンケートをとってみた結果を載せてみたいと思います。

Twitter上のアンケートの結果

以下を御覧ください。

ということで、たかだか1人の人間がしかけたアンケートですが、100票近い投票があり、7割程度が私立学校の教諭のデータだと仮定すると、指導教諭も主幹教諭も存在しない方が最も多いようです。

一方で、どちらか一方はあるという私立学校も15%程度あり、教諭と教頭の間のザ・中間管理職という位置づけなのかもしれません。

指導教諭も主幹教諭もある、という学校は2校というところでしょうか。

転職の鬼
転職の鬼

もっとも、たかがTwitterアンケートという点はお忘れなきよう‥

私立学校の指導教諭と一般の教諭の給与の比率で起こっている逆転現象

今度は私立学校どうしで少し比較をしてみます。

私立学校の指導教諭のうち、月給が40~45万円の割合は41.5%ですが、45万円以上の割合は18.1%です。

一方、一般の教諭のうち、月給が40~45万円の割合は16.0%ですが、45万円以上の割合は21.8%です。

指導教諭の方が、役職としては上なのに、なぜ、このような逆転現象が起きてしまうのでしょうか。

あくまでも想像ですが、「指導教諭」という役職を設置している学校の待遇がもともとそこまで良くないということに繋がるのかもしれません。逆説的にそのように考えると、この逆転現象に説明がつくような気もします。

アンケート結果でも、そもそも指導教諭という役職を設置している学校は多くありません。

一定数、公立ベースに組織の骨組みを作る私立学校は実際に存在します。

もしかしたら、そのような学校では役職体系が公立に準拠しているだけでなく、給与体系も公立に準拠している可能性もあります。

本当の人気校、名門校、伝統校のホワイト私学は独自路線をいく場合も少なくありません。そう考えてしまうと、指導教諭という役職を設定している学校は、本当にホワイトな私学と比べてしまうともしかしたら給与体系にも差が出てきてしまうのかもしれませんね。

私立学校の仕事内容

記事内では、基本的には公立高校教員と同じとあります。

担任業、ホームルーム、部活動など、ありきたりな内容については触れています。

こういう業務については過去に私も記事にしています

私の記事を読んでいただいたらわかるのですが、今回のファイナンシャルフィードの記事には記載されていない仕事が2つあります。

それは入試広報です。

もちろん、実技系教科の先生方は入試問題の作成を直接行うことは少ないでしょう。一方で、手分けして面接官になることもあります。

広報は塾との折衝や中学校への営業活動など、意外とバカにはできない労力がかかります。

私立学校は所詮中小企業であるという視点が抜けてしまっているようには感じてしまいます。

これらの仕事があるということは覚悟の上、私立学校の採用選考を受けたり、私立学校の教員と結婚したほうがいいのではないかと思います。

まとめ部分に記載されている◯◯に違和感

記事内では以下のような文章がまとめの段落の冒頭にあります。

私立高校教員男性の平均年収は約595万円ですが、万が一平均より年収が少ない場合でも、残業や部活動などで休日出勤すれば手当が付く学校もあります。

https://financial-field.com/income/entry-286732

残業で正確に手当が出る学校って、どれくらいあるのでしょうか。

良し悪しは別として、実態はまだまだなのではないかと感じてしまいます。

ということでこちらについてもTwitterのアンケートをとってみました。

固定残業代や教職調整手当などの実態が伴わないものではなく、いわゆる残業代というものはどれくらい支給されているのかが気になったのですが、アンケートで回答者側にどこまでうまく伝わっているのかは疑問ではあります。

アンケート結果を見ると、やはりまだまだ残業代が支給されていない学校のほうが多いようです。

一方で、残業代が支払われている学校も一定数はあるようで、どういう規定になっているのかは気になるところです。

個人的に、自分は基本給も高くて39歳時点で1000万円を突破しているので、残業代らしい残業代はなくても問題ないように感じてしまいますが、そういう環境で勤務している人のほうが少ないと思いますので、まだまだ改善の余地はあるようにも思います。

おわりに

今回は久しぶりに文字媒体で記事を書く運びとなりました。

私立学校の教諭だからこそ、気になるデータの着眼点は違うのかもしれません。

変わらず願っているのは、子どもたちにとっても、先生たちにとっても、お互いが納得して気持ちよく場所に私立学校がなって欲しいということです。

給与待遇にしても、学校の校風や制度設計にしても、それをやりやすいと感じて先生たちが思う存分に力を発揮し、生徒の成長に繋がる好循環になればいいと思っています。

今回は給与待遇の観点からの切り口でした。

また、気になる記事やデータを見つけたら、私学教員の視点で考察していきたいと思います。

アンケートにご協力いただいた皆様、ありがとうございました。

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私立の給与・給料・ボーナス・年収考察

世の中の私学の給与体系の記事が的はずれかと言われると‥

当時話題になったこちらの連載があったと思います。

教師の“出世・人事・年収”事情を全解明、「#教師のバトン」事件の闇にも迫る

この連載の中のこちらの記事で取材を受けました。当時、Twitter上の他の私立教諭の方も、内容がかなり核心に迫っているというツイートをしておられましたが、実は私が情報提供をしていたりもしたんです。記者の方とやり取りした当時のメールも残っていますし、意外に盛り上がってしまい、取材は3時間は超えていたはずです。

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