2022年度から、新学習指導要領による学習がスタートしています。国語科では、科目名や科目の含む学習範囲が大きく変更され、改定前から大きな話題になりました。
では、2022年度からの指導要領(以下「現行課程」)と、これまでの教育課程(以下「旧課程」)はどのように変化したのでしょうか?就職・転職先の学校を検討する際のチェックポイントは?
公立中学校から私立高校に転職した経験のある私が、確認すべきポイントを解説していきます。
現行課程「国語科」の概要
2つの必修科目(◎)と4つの選択科目(〇)、全6科目で構成されています。以下にそれぞれの科目で扱う内容をまとめました。なお、現行課程は2022年度からスタートしたため、選択科目の実施は2023年度以降となります。
◎現代の国語
実社会で必要な資質・能力を育成する科目。近代以降の論理的な文章を扱います。
◎言語文化
上代〜近現代の文学的文章への理解を深める科目。古文だけでなく、小説や随筆も「言語文化」の範囲になります。
〇論理国語
近代以降の論理的な文章、説明文・評論文を読解する科目です。必要に応じて翻訳文・古典を含む論理的な文章を扱うこともあります。
〇文学国語
近代以降の文学的文章、小説・随筆・古典の文学的文章などを扱う科目です。映画や演劇についての評論文なども、「文学国語」の範囲になります。
〇古典探究
旧課程「古典B」をベースにした選択科目。古文・漢文を読み解くなかで、自分の考えをもち、生涯古典に親しめるよう指導していくことを目的にしています。
〇国語表現
実社会のなかで必要になる、他者との関わりに不可欠な「伝え合う力」をつける科目。
旧課程からどのように変わったのか
高校国語の科目・単位数の改定は以下の通りです。
【必修科目】
「国語総合」(4単位)→「現代の国語」(2単位)「言語文化」(2単位)
【選択科目】
「国語表現」(3単位)→「国語表現」(4単位)
「現代文A」(2単位)「現代文B」(4単位)→「論理国語」「文学国語」(各4単位)
「古典A」(2単位)「古典B」(4単位)→「古典探究」(4単位)
「言語文化」の授業実践例
まだまだ実践例も少ない現行課程の高校国語。
実際に私が見聞きした「言語文化」の実践をご紹介します。
- 『伊勢物語』
教科書本文の学習を終えたあと、グループ学習。
『伊勢物語』全体のなかから好きな章段を1つ選び、調べる。
章段の内容や読解のポイント、面白さをパワーポイントにまとめる。
プロジェクターを使い、スライドを投影。クラスに向けて発表。
(教科書に載っている章段以外のものを知ることができる) - 「古典文学絵本」の作成
好きな作品を1つ選び、イラストをつけた「絵本」のかたちでまとめる。
学校選びのときにチェックすべきポイント
国語科の先生が注目すべきなのは「カリキュラム編成」です。教育課程の改訂に伴い、国語科の編成にも各校の方針が出ています。特に確認しておきたいのは以下の2つです。
- 必修科目「現代の国語」「言語文化」の取り扱い
- 選択科目「論理国語」「文学国語」の取り扱い
それぞれ確認していきましょう。
①必修科目「現代の国語」「言語文化」の取り扱い
1年時に全員履修することになる、「現代の国語」(2単位)「言語文化」(2単位)の授業。
指導要領上では、
- 「現代の国語」→説明的文章
- 「言語文化」→文学的文章+古典
という範囲分けになっています。
旧課程では、「国語総合」のなかで説明的文章・文学的文章・古典が含まれる構成で4単位。そのため「現代文は現代文が得意な先生が担当」「古文は古文が得意な先生が担当」というようなゆるやかな専門分けをすることも可能でした。
しかし、説明的文章と文学的文章+古典とで科目を区切ったことによって、「現代文」「古典」で専門分けするのが難しくなってしまったのです。
- 「現代の国語」(評論文)「言語文化」(小説・古典分野)を教える教員を交代制にするとしても、2科目を横断して教員を配置する難しさがある
- 成績をつけるときには「現代の国語」「言語文化」で分けて出さなくてはならないので、定期テストを含めてどのように処理するのかを検討する必要がある
指導要領改定にあたっては、「教員の専門性が発揮しにくい科目分けなのではないか?」という議論も盛り上がりました。
採択している教科書にも注目
現行の検定教科書では、第一学習社のみが「現代の国語」のなかで小説分野の文章を掲載しています(芥川龍之介の「羅生門」、夏目漱石の「夢十夜」など小説5作品)。文部科学省による教科書採択のデータを見てみると、第一学習社の「現代の国語」が16.9%の採択率(19万6494冊)で最多という結果です。
勤務先の学校が採択している教科書が第一学習社だった場合、「現代の国語」の担当であっても文学的文章の指導をする可能性もありますね。
第一学習社の教科書の構成は、説明的文章は「現代の国語」、文学的文章は「言語文化」とする教育課程の範囲に反するのでは、と検定教科書のあり方が物議を醸しました。
しかし、この採択の結果から考えると、「現代の国語」のなかで文学的文章を扱うニーズの高さも窺えます。「文学的文章を扱う時間の少なさ」や「言語文化のなかで文学的文章も扱う大変さ」といった現行課程の課題を解決するべく、今後各学校でのカリキュラムの組み方は変化していく可能性があります。
カリキュラム一覧やシラバス上の科目名だけでは、中の状況がわからないことがあるというわけです。専門に特化した指導がしたい人は、学校側に確認してみるのもオススメです。
②選択科目「論理国語」「文学国語」の取り扱い
「論理国語」「文学国語」について見ていく前に確認しておきたいのが、共通テストの出題形式です。大学進学を視野に入れるレベルの高校は、共通テストに向けた対策が必要になります。
2022年の段階では、共通テストは「説明的文章」「文学的文章」「古文」「漢文」大問4つの構成です。
2022年度からの現行課程で学習した生徒が受験することになる2025年度入試については、「現代の国語」「言語文化」からの出題になるという発表が出ています(大学入試センター「平成 30 年告示高等学校学習指導要領に対応した令和7年度大学入学共通テストからの出題教科・科目について(令和3年3月24日)」)。
そのため、現行課程対応の共通テストでも「説明的文章」「文学的文章」「古文」「漢文」は満遍なく出題されると推測されます。
そこで、各学校で見られる選択科目の対応には例えば以下のようなものがあります。
①「論理国語」+「古典探究」
②「文学国語」+「古典探究」
③「論理国語」または「文学国語」のみ
④「論理国語」+「文学国語」+「古典探究」
①「論理国語」+「古典探求」
4単位分を2単位×2年に分ける、「分割履修」でカリキュラム編成されるパターンです。
「論理国語」(2単位)+「古典探求」(2単位)
のように配分して、2~3年生の2年間で履修します。
例えば以下のようなかたちです。
2年:論理国語(2単位)+古典探求(3単位)
3年文系:論理国語(2単位)+古典探求(4単位)
3年理系:論理国語(2単位)
②「文学国語」+「古典探究」
こちらも、「分割履修」を利用して、4単位分を2単位×2年に分けて組まれる場合があります。
例えば以下のようなかたちです。
2年:文学国語(2単位)+古典探求(4単位)
3年文系:文学国語(2単位)+古典探求(2単位)
3年理系:文学国語(2単位)
③「論理国語」または「文学国語」のみ
「古典探求」を設置せず(あるいは別で「古典演習」「古典講読」を設置して)、「論理国語」「文学国語」の4単位を学習する学校もあります。
④「論理国語」+「文学国語」+「古典探究」
「論理国語」+「古典探究」のセットで設置すると、文学的文章に接する機会が減り、共通テスト対策に支障が出ます。これは「文学国語」+「古典探究」についても同様です。
この問題を解決するため、「減単」というシステムを使って「論理国語」「文学国語」のダブル設置をしている高校もあるようです。この場合、1つ1つの科目の濃度は薄くなりますが、評論文と小説文を満遍なく読めるというメリットがありますね。
※減単
履修科目の設置に際しては、必要に応じて単位を減らす「減単」をすることができる、とされています。
減単のシステムや、分割履修を活用しつつ、学校で実際に組まれているカリキュラム例には以下のようなものがあります。
2年:「論理国語」(2単位)+「文学国語」(2単位)+「古典探求」(2単位)
3年文系:「論理国語演習」(2単位)+「文学国語」(2単位)「古典探求」(2単位)
カリキュラムの編成方法は、学校の方針が反映される部分でもあります。自分がどの分野が専門科目なのか?どの科目に重点をおいて指導したいか?も含めて、特に2~3年の選択科目の配分はチェックしておきたいところです。
各学校のシラバスやカリキュラム編成を調べると、設置する科目、各科目の単位数が明記されています。気になる学校がある人は調べてみてください。
私学の求人を見ていると、「国語(現代文)の教員募集」「言語文化の教員募集」というような募集の仕方も見かけます。本サイト「ホワイト私学への転職を目指す」での求人まとめもチェックして、自分にあった学校を探してみてください!
現行課程「高校国語」の在り方を知り、学校選びに生かそう
スタートしてすぐの「高校国語」現行課程。特に2~3年生向けの選択科目についての情報はまだまだ少ないです。しかしだからこそ、現場の情報を知っておくことが採用試験における対策にもなり、実際に指導するときにも役立ちます。
カリキュラムの編成方法は学校ごとの方針も反映されるので、この記事の内容も参考にしつつ、是非チェックしてみてください。
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